2026年9月10日、日本経済新聞に、Sakana AI、SCSK、住友商事の3社によるAI分野での提携についての記事が掲載されました。
一見すると「最先端AI企業と大手企業の提携」というニュースですが、システム開発に携わる私たちにとっては、かなり興味深い内容です。
なぜなら、この提携には「AIが急速に進化する時代に、SIerやシステム開発会社にはどんな役割が残るのか?」という問いに対する、一つの答えが見えるからです。
Sakana AI・SCSK・住友商事は何をするのか
今回の提携は、それぞれの会社が持つ強みを組み合わせて、AIを企業の実際の業務に導入していこうというものです。
かなり単純化すると、3社の役割は次のようになります。
- Sakana AI:AIを作る
- SCSK:AIを企業のシステムや業務に組み込む
- 住友商事:AIを活用する企業や事業領域を持ってくる
Sakana AIは、AIモデルやAIエージェントなどの研究開発を担当します。
SCSKは、そのAIを企業で本当に使える状態にするため、データ整備、既存システムとの連携、情報セキュリティ、ガバナンス、品質管理などを担います。
そして住友商事は、約900社の連結事業会社と約10万社の顧客基盤を活用して、さまざまな産業へAIを展開していきます。
非常にきれいな役割分担です。
AIは作れても、企業には簡単に導入できない
ここが今回のニュースで最も重要なポイントだと考えています。
生成AIの性能は、この数年で飛躍的に向上しました。
プログラムを書くことはもちろん、資料を読んだり、データを分析したり、メールを書いたり、複数のシステムを操作したりすることまで可能になっています。
ところが、「高性能なAIが存在する」ことと、「企業がそのAIを使って業務を変えられる」ことは、まったく別の話です。
例えば、次のような業務をAIに任せるとします。
- 顧客からメールで注文が来る
- AIが内容を読み取る
- 基幹システムから在庫を確認する
- 必要なら担当者に承認を求める
- 見積書を作る
- 顧客へ返信する
技術だけを見れば、現在のAIでもかなりの部分を実現できるでしょう。
しかし実際に企業へ導入しようとすると、次のような問題が次々に出てきます。
- どのデータをAIに見せていいのか
- 既存システムとはどう接続するのか
- AIが間違えた場合はどうするのか
- どこまで自動実行させるのか
- どこから人間の承認を必要とするのか
- ログをどう残すのか
- セキュリティはどう担保するのか
AIモデルそのものを作る技術とは、かなり違う能力が必要になります。
SCSKは今回、この部分を「AIアルゴリズムとビジネス実装のギャップ(AI実装の壁)」と表現しています。
まさに、この「壁」を越えることがAI導入の本丸になりつつあるのではないでしょうか。
「AIがプログラミングするならSIerはいらなくなる」のか
これは私たち自身も以前から考えていたテーマです。
AIによるプログラミング能力が急速に向上しています。
仕様を伝えればAIがコードを書き、テストを行い、不具合を修正する。
この能力がさらに進歩すれば、「システム開発会社やSIerの仕事はなくなるのではないか」という見方が出てくるのは自然です。
実際、従来型のシステム開発の一部は、かなり大きな影響を受けると思います。
しかし今回の提携を見ると、むしろ別の未来が見えてきます。
SIerが不要になるのではなく、SIerに求められる仕事が変わる。
という未来です。
「作る人」から「導入する人」へ
従来のSIでは、次のような工程が一般的でした。
- 要件定義
- 設計
- プログラミング
- テスト
- 納品
その中でも特に大きなコストを占めていたのが、プログラミングやテストなどの「作る工程」です。
この部分は今後、AIによって劇的に効率化されていくでしょう。
一方で、企業へのAI導入では、次のような仕事が必要になります。
- 業務を理解する
- 課題を発見する
- AI化する業務を決める
- 業務フローそのものを再設計する
- AIと既存システムを接続する
- 権限や承認フローを設計する
- 本番導入する
- 効果を測定する
- 改善する
つまり価値の中心が、「システムを作る能力」から「AIを使って業務を変える能力」へ移動しているとも考えられます。
これはFDEに近い考え方でもある
最近よく聞かれるようになった言葉に「FDE(Forward Deployed Engineer)」があります。
FDEは、単純に顧客から仕様書を受け取ってシステムを作るエンジニアとは少し違います。
顧客の現場に入り込み、
- そもそも何が課題なのか
- どこをAI化すれば最も効果が出るのか
- どんなシステムにすれば現場で使われるのか
というところから考え、実際に動くものを素早く作りながら改善していきます。
今回のSCSKの役割も、この考え方とかなり近いものがあります。
従来型SIが、「仕様を決めてください。それを作ります」だとすれば、これからは、「一緒に現場を見て、AIでどこを変えるべきか考えましょう。まず動くものを作って、使いながら改善しましょう」という仕事が重要になるのではないでしょうか。
AI時代に厳しくなるSIer、伸びるSIer
そう考えると、AIはすべてのシステム開発会社にとって追い風というわけではありません。
例えば、
「エンジニア10人を半年投入します」 「1人月○○万円です」
というように、プログラミングの工数そのものを価値として販売しているビジネスモデルは、今後厳しくなる可能性があります。
AIによって同じ開発を2人、3人で実現できるようになれば、「何人月必要か」ということ自体の価値が下がるからです。
一方で、次のような会社の価値は、むしろ高まる可能性があります。
- 顧客の業務を理解できる
- 課題を整理できる
- AIをどこに使うべきか判断できる
- 既存システムやデータと接続できる
- 実際の業務として運用できるところまで持っていける
私たち自身も「AI時代のシステム開発会社」へ
これは私たちCitrusAppにとっても、他人事ではありません。
これまで私たちは、BubbleやFlutterFlowなどのノーコード・ローコードを活用しながら、企業の業務システムやWebサービス、アプリなどを開発してきました。
そして現在は、AIを活用したスクラッチ開発も増えています。
AIによってプログラミングそのものが高速化していけば、「開発すること」だけを価値にするのは難しくなっていくでしょう。
しかし一方で、私たちがこれまで行ってきた、
- お客様から業務を聞く
- 課題を整理する
- システムの形に落とす
- 実際に開発する
- 現場で使える状態まで持っていく
という仕事は、AI時代にも必要です。
むしろ、この能力とAIを組み合わせることで、これまでより少人数で、より大きな業務改善を実現できる可能性があります。
私たち自身も、「システムを作る会社」から「AIを使って企業の業務を変える会社」へ。そんな進化が必要なのだと思います。
AIが進化するほど、「現場に実装する人」が重要になる
今回のSakana AI、SCSK、住友商事の提携を見て、改めて感じたことがあります。
AIの性能が上がれば、AI導入が勝手に進むわけではありません。
むしろAIにできることが増えれば増えるほど、「では、自社のどこに使うのか」を考える必要があります。
そして、それを実際の業務として動かすためには、業務設計、データ、システム連携、セキュリティ、運用設計などが必要になります。
だからこそ、AIがプログラミングできるようになる = SIerが不要になるとは限りません。
むしろ、プログラミングそのものの価値は下がり、AIを企業の現場に実装できる人の価値が上がる。
今回のニュースは、そんなAI時代のシステム開発業界の姿を象徴しているように感じます。
AIによって「作るコスト」は急速に下がっていく。
だからこそ私たちシステム開発会社も、「何を作れるか」だけではなく、「AIを使って、お客様の仕事をどう変えられるか」を考える会社へ変わっていく必要があるのではないでしょうか。
CitrusAppは、AIを活用して中小企業向けの専用SaaS・業務システムを開発しています。「この業務、AIで変えられないか?」という小さなご相談から、実際に動くシステムづくりまで一緒に考えます。お気軽にお問い合わせください。
