西加奈子さんの作品は今回初めてでしたが、これはすごい本ですね。
面白かった、、、以下感想です。
太宰治「人間失格」との類似性
今回読んだ サラバ を読んでる途中で太宰治の「人間失格」を彷彿とさせられました。
私は太宰治をそんなに読んでないですが、ちょうど数ヶ月前に『人間失格』を読んでいたので、この『サラバ』は「人間失格の現代版」のような感覚で読み進めていました。
あるいは、村田沙耶香さんの世界99の主人公とも似ているとも感じました。
『人間失格』や『世界99』の主人公と共通している点は、どの人物も「自分がない」というところだと思います。やりたいことがない。そういった主人公の性質を描いている点が非常に似ている。
『サラバ』では、主人公が逆子で「左足から生まれてきた」という印象的な場面から物語が始まります。幼少期を経て、父の転勤によってイランで暮らし、その後日本に戻り、さらにエジプトのカイロへ行き、また日本へ戻る。そうした人生が描かれています。
強烈なキャラクターである母親。そして同じく強烈な存在である姉。
姉については明示的には描かれていませんが、発達障害的な特徴を持っているように感じました。扱いづらく、母親自身も困っていた存在でした。
その強烈な母と姉に挟まれながら、主人公は常に空気を読み、自分の意見を言わず、基本的に受け身で生きていくようになります。
この物語は、そうした完全に受け身な主人公が、最終的にどんな末路をたどるのかを描いた話です。
主人公は幸か不幸か、イケメンでもある。空気を読む力もあるので、コミュニティにうまく溶け込みながら生きていくことができる。この辺も人間失格っぽいですね。
しかし「自分のやりたいことがない」という欠落が、人生の後半に入ってからじわじわと彼を落ちぶれさせていく。
自分で何かを決められないまま、ずっと流されていく人生。
唯一の武器だった「イケメン」であることも、年を重ねて髪が薄くなり、仕事も減り、一気に崩れていく。友達も、恋人も結婚相手も、子どももいない、一人きりの状態で、どんどん流されるままにダメになっていく。
信じるものは、誰かに決めさせてはならない
人生の後半で覚醒した姉が言った一言です。
「あなたが信じるものは、誰かに決めさせてはならないわ」と。
発達障害気味で、トラブルばかり起こしてきて傷つき続けた姉の口から、そんな言葉が出てくる。この場面が何より嬉しかった。姉の覚醒が心から嬉しい。
ただ、主人公の中には苛立ちもある。「今さら何を言っているんだよ」「散々みんなに迷惑をかけてきたくせに」という気持ち。しかしこの言葉は主人公の受け身な人生の確信をつきすぎている。それ故の受け入れ難い。
「あなたが信じるものは、誰かに決めさせてはならないわ」 は、本当にその通りです。
ただ、僕にとってはあまりにもその通り過ぎて、普通だなって感じでもあった。
大昔、ふしぎの海のナディアのエンディングテーマで、「自分で決めたことだから多分一人でも平気」という歌詞があったのだが、僕にとってはこれがある種の座右の銘的な台詞である。
「自分で決めさえすれば大丈夫」という確信が昔からあった。成功への確信ではなく、自分で決めたことなら受け入れられるという確信だ。
そのため、何か大きな決定は(良いことではないかもしれないが)相談しないで決める。自分で決めたらなら人のせいにしないし、結果も気持ち良く受け入れられる。
まぁ、理想的には相談した上で自分で決めるのがいいだろう。。
「お前が消えて喜ぶものにお前のオールを任せるな」も同じ話かな。
ハッピーエンド「サラバ」
そして最後、かつてのエジプト・カイロ時代の親友との再会。
二人の間の合言葉のような「サラバ」という言葉で何かを感じる。
主人公は自分がやりたいことが「小説を書くこと」だと気づき、そこから復活していく。
この結末は本当に良かったと思います。
「人間失格のハッピーエンド版」です。
『人間失格』の主人公にも、漫画を描きたいという、たった一つのやりたいことはありました。でもそれは人生を変えるほどの力にはならず、最後は自殺で終わってしまう。
この『サラバ!』を読みながら、「人間失格と同じ道になるなよ、なるなよ、、、」と応援してました。
結果として、同じにはならなかった。よかった!
30代、無職、薄毛、という三重苦ではあるものの、やりたいことを見つけたらそれで良い。
コンビニ人間も、友達も恋人もいなくコンビニでしか働けない人の人生だったが、「私にはコンビニがある」と覚醒した。他人がどうこうではなく、自分の好きなもの・やりたいことを見つけることが何よりだ。
人間失格との違いは、父の存在、矢田のおばちゃん、「親友」と呼べる友達、スグ、そしてヤコブの存在。人生を変えてくれるような他者が、わずかでもいたこと。
そして、父はもちろん、歪ではあったが姉も母も彼を愛していたということ。
だからこそ、時間はかかったものの、主人公は気づくことができた。
とはいえ、結構すごい人格者たちと知り合ってるんだから、もっと早く覚醒しろよ!って気もした 笑
でも人間失格には確かにそんな人いなかったなー。。
お金の問題
ただ一つ、この物語の主人公や姉が苦しい人生から立ち直るまでのストーリーに対し、さらりとしか触れられていない点がある。
お金である。
この主人公のお父さんとお母さんは色々あり結局離婚した。お母さんは完全に働いていない。お姉ちゃんも働いていない。主人公は大学卒業後、フリーのライターとして働いたがそこから徐々にダメになりほとんど仕事がなくなり最終的には数年ほとんど何もせず、毎日図書館通いだ。
お金、どうしたの!?
という話である。
お父さんが大企業に勤めていた。それもかなり大きな企業で、海外赴任が多々ある仕事。めちゃくちゃ稼いでいた上にそのお金を自分のためには全く使わずすべて妻と子供に費やした。離婚した後もずっと。
退職金もすべて妻たちに渡した。
さらに矢田のおばちゃんからの遺産。
このお金があったからこそ、この姉は海外を放浪でき、その間に自分を見つけ、「信じるものは、誰かに決めさせてはならない」という悟りを開けたのである。
主人公も、そのお金があったからこそダメになった時に何も働かず図書館通いをし続けることができ、覚醒後もそのお金があったからこそ(警備のバイトは始めたが)3年の時を費やし本を書くことができたのだと思う。
これ、お金がなかったらこの人間関係の問題に加えて、切実なお金の問題が出てくる。
何のモチベーションもなかろうが、働かなくてはならない。
もし姉が社会に馴染めず働けないのであれば、養わなければならない。母も贅沢三昧できなかったであろう。
という、、、お金もある程度は大事だって思った、という話でした。
